更新日:2023-02-13
相続した空き家状態の実家があるけれど、売却したい。このようなとき、一定条件を満たすと手取り金額が最大600万円も増える特例があるのをご存じですか?
不動産を売却したときにかかる税金を安くしてくれる「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」(以下「特例」という)といいます。
この「相続空き家の3,000万円特別控除」は、どのような不動産でも使えるわけではなく、いくつか適用要件があります。
ここからは、この特例の適用要件や、空き家となる実家を売却しよう考えている方が、いまのうちから準備しておくことなどをまとめました。
【今回のポイント】
それでは「相続空き家の3,000万円特別控除」の内容を紹介します。
この特例は、耐震性の低い空き家を放置させないこと、空き家の発生を抑制することを目的として創設されました。具体的には、相続で取得した空き家を手放すとき、売ったときに係る税金の負担が軽くなります。
どのくらい税負担が減るのか、また特例を利用するための条件を見ていきましょう。
不動産を売ったときに利益(儲け)が出ると、その利益に対して税金がかかります。このときにかかる税金を「譲渡所得税」と呼びます。
次の前提条件で計算してみましょう。
特例を利用したほうが、約600万円も税金負担が減り、手取りが増えています。空き家状態の実家を相続して売るのであれば、この特例をぜひ利用しましょう。
次に適用要件を見ていきます。
この特例を使うためにはいくつか要件があります。築年数、価格、空き家であり続けるなどの要件を満たす必要があり、これらを知っておかないと、いざ特例を使おうとしても使えないということになるので注意してください。
空き家が被相続人の親が一人で住んでいた自宅であることが条件です。子や親族などが同居していると適用対象外となり、特例が使えません。
空き家が昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された建物であることです。
創設目的が耐震性の低い空き家を減らすことですから、対象建物の建築年月日に要件があるのです。
この基準日は耐震基準の見直しがあった年で、昭和56年5月31日以前を旧耐震、それ以降を新耐震の建物としています。この基準に沿って、耐震性が低い=旧耐震=昭和56年5月31日以前の建物として要件に加えられています。
相続したときから売却するときまで、ずっと空き家でなければなりません。
もし相続してから誰かに貸したり、住んだりすると空き家状態ではなくなりますので、特例の対象から外れてしまいます。もし貸したり住んだりするのであれば、この特例は使えなくなることを理解したうえで判断するようにしましょう。
売買価格が1億円以下でなければなりません。
たとえば、空き家が1億5,000万円で売れることがわかったとします。売買契約を7,500万円ずつ2回に分ければ1億円以下だからこの特例を使えるのでは、と思うかもしれませんが、答えは、NGです。
2回に分けたとしても、合計金額が1億円以下かどうかで判断しますので、注意が必要です。
空き家を相続した人たち全員で控除額が合計3,000万円ではなく、ひとりにつき3,000万円を適用することができます。
空き家を売却したとき、相続した不動産持分に応じて売買代金を得られますので、相続人それぞれが納める税金を計算します。
先ほどの前提条件で計算してみましょう。
Aさん
売買価格のうち2,500万円−(取得費125万円+譲渡費用85万円+特例控除3,000万円)=課税所得0万円
0万円×20.315%=0万円
Bさん
上記と同じ計算式で求めます。
結果、AさんもBさんも譲渡所得税は0円となります。
相続人が2人以上いる場合、空き家となった実家を売却するなら共有で相続し、この特例で控除額3,000万円をそれぞれ使えれば、一人で相続して売るよりもその被相続人ご家族に残るお金が増えるのです。
売却するとき、旧耐震の古い建物をどのような状態で買主に引渡せばよいのかなど、気を付けるべき点があります。
売買するとき、建物は次の2つのどちらかの状態としなければなりません。
・耐震補強する
旧耐震の建物なので、然るべき専門家による耐震診断のうえ耐震補強工事をして、工事完了後に買主へ引き渡します。
・解体し更地にする
対象建物を買主が使わない場合は、旧耐震の建物を補強せず、解体して更地にします。
※建物を解体するタイミングは買主に引渡す前
建物を解体し更地にする場合、タイミングが重要です。
売買契約で、引き渡した後に買主が解体するとなると、この特例を使うことができません。買主に引き渡す前に建物を解体する必要があります。
親がひとりで自宅に住んでいたことが要件としてありましたが、老人ホーム等に入所していたらどうなるでしょうか。
親が要介護認定などを受けて老人ホーム等に入所した場合は、この特例を適用できます。ただし、親の荷物が置いてあるなど細かな要件がありますので、この点については相続に詳しい税理士や、最寄りの税務署に確認しましょう。
また、ご本人や親のケースが該当するのか詳しく知りたい方は、国税庁ホームページの「被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋」をご覧ください。
※親が子の家や賃貸物件に入居していると使えない
老人ホーム等に入所していたら適用できますが、子の家や一般的な賃貸に入居していた場合は、親が自宅に住んでいないとみなされてしまい、<相続発生前まで住んでいたこと>という要件に当てはまらなくなるので、この特例を利用することはできません。
相続が発生してから3年を経過する日が属する12月31日までに売却することが要件の一つにあります。また、この特例は期限付きの特例で、令和5年12月31日までが期限です。
これまでお伝えしたとおり、手取りが最大600万円も変わりますから、この特例を利用できるのであれば、是が非でも使いたいですよね。
などの理由から期限内に売却することができなくなることもあります。そうなると、この特例を利用できず、期限切れ後に売却すると通常の税金を納めることになります。
賢くこの特例を利用するためには、事前に準備をしておくことが大切です。
そのためのポイントが4つあります。
どのくらいの価格で売れるのかを、不動産会社に査定をお願いするか、ご自身でおおよその売買価格を確認してみてください。
特例適用の判断や、2人以上で相続したほうがよいのか判断材料とすることができますので、価格査定はしておきましょう。
不動産相続の現場でお客様が一番と言っていいほど苦労されているのが、部屋の片づけです。
捨てる物だけになっていればいいのですが、思い出の品や換金できる物などとの分別にとても時間がかかります。
産廃業者に依頼すると一度で終わるので楽な分、費用もかさみます。少しずつご自身でゴミ置き場に捨てたり、不用品回収で持っていってもらったりするだけでも費用を抑えられますので、早めに片づけ始めることをおすすめします。
空き家のままはもったいない、親の介護費用を捻出したい、空き家でも固定資産税などの税金が毎年かかる、空き家の実家を貸して賃料収入を得たい、などと一度は考えるのではないでしょうか。
特例を利用した場合とそうでない場合の手取りを比較しましょう。
(1)この特例を利用して売却したときの手取り
(2)空き家を貸して、相続後に売却(特例適用不可)したときの賃料収入+売却の手取り
一見すると賃料収入も得られる(2)が多く収入を得られそうですよね。
しかし(1)のほうが手取りが多いことも十分にあります。
安易に貸すことを選択せず、貸す売るについてシミュレーション検証したうえで、事情を考慮して判断しましょう。
実家の方針を巡って相続人同士で争ってしまうと、その解決までに時間も労力もとにかくかかります。特例の要件である『相続発生から3年を経過する日が属する12月31日までに売却』という期限が過ぎてしまう可能性もあります。
そうなると、税負担を軽減できるメリットを享受できなくなりますから、これでは誰も得しません。
親が元気なうちに、実家をどうするかを話し合っておくことが大切です。
実家は育った場所であり親との想い出もあるもの。先祖代々引き継ぐものなど、経済的な損得勘定だけでは測れないものがあり、相続する人ごとに思いの重さも違うでしょう。
だからこそ、できることならば親が元気なうちに、子は親へ、親は子へ気持ちや希望を聞き、家の維持負担などの現実的なこともよく話し合い、大切な実家を空き家のまま朽廃させないように取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。
空き家となる実家の相続については、相続に詳しい不動産会社や税理士などの専門家へご相談ください。