国に引き取ってもらう新制度

更新日:2024-07-19

国に引き取ってもらう新制度

売れない貸せない負動産は、固定資産税や維持管理費を払い続けることになり、相続時には相続登記費用がかかり、そして所有者責任も続いていきます。

相続放棄を選択できないお客様は代々引き継いでいくしかありませんでしたが、そこに救いの手がでてきました。それが『相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(以下、「相続土地国庫帰属制度」という)』です。

一言でいうと、【相続した土地を、お金を支払って国に引き取ってもらう】という新しい制度で令和5年4月27日からスタートしました。

そもそも相続土地国庫帰属制度とは?

『相続土地国庫帰属制度』は、すべての財産を放棄しなければならない『相続放棄制度』とは異なり、相続した資産のうち要らない土地だけを国に引き取ってもらえます。
つまり、申請した土地以外の他の資産まで手放す必要はないのです。

相続土地の国庫帰属制度の3つの要件

相続土地国庫帰属制度にはヒト・モノ・カネの3つの要件があり、これらを満たさないと国庫帰属されません。お客様は国がなんでも引き取ってくれる!と期待しているかもしれませんが、誰でも、どのような土地でもいいわけではありません。

①ヒトの要件

相続や相続人に対する遺贈で取得した人が申請できます。売買や生前贈与で取得していたら使えませんので注意が必要です。

また、土地を共有している場合は、共有者の中に相続等で取得した人が1人でもいたら、共有者全員で申請することができます。一例を挙げると、父母の共有名義にて売買で土地を購入し、その後父に相続が発生しその子が相続で取得。母は売買、子は相続でそれぞれ取得しているようなケースは利用可能です。

なお、制度スタート前に相続等で取得していた場合も利用できます。

②モノの要件

土地のみで、建物がある場合は取り壊す必要があります。
国が引き取らない土地として次の10条件を挙げています。


※法務省資料を基に弊社グループ会社にて作成

もし一つでも当てはまっていれば、『申請できる状態』まで土地を整備する必要があります。
では、申請できる状態にするためにはどのようなことをしなければならないのでしょうか。


1) 建物や構築物の解体(実家建物や倉庫など全て)
2) 土地の境界を明らかにする(例:境界確定測量)
3) 収益を目的とした使用を止める(資材置き場や駐車場など)
4) 土壌汚染や地中埋設物の有無を調査する(地歴などの情報収集)
5) 隣地との揉め事を解決(樹木の枝葉やブロック塀などの(被)越境物も要解消)
6) 擁壁工事して土砂崩れが起こらないように措置する など

どれもこれも時間や費用がかかるものばかり。
今回は特に注意したい代表的な3つのモノの条件について触れていきます。

⑴建物が存在する土地
国に引き取ってもらうためには建物を解体して更地にする必要があります。解体費用の目安を確認しておきましょう。

【建物の解体費用】
解体する場合1㎡当りの単価
・木造の場合:約2万円~
・鉄骨系の場合:約5万円~

仮に、木造の一戸建て3LDK(90㎡)を解体するとなると、解体費は180万円ほどになります。※大型車の通行が可能かどうか、土地の形状、建物の構造(鉄筋や木造など)・面積によって変わります。また昨今の解体費用は、人件費の高騰、解体資材の分別にかかる費用がかさむなどで高くなっています。

⑵境界が明らかでない土地
隣地との土地境界を明らかにしなければなりません。
オーソドックスな方法は、土地家屋調査士の方に『土地の境界確定測量』をお願いすることです。土地面積や隣接する地権者の数などによって変わりますが、約30万円~としている土地家屋調査士が多いです。(山林の場合は、約100万円~)

参考価格…横浜市内の一般住宅地(土地90㎡、隣接地の数は5宅地)の土地確定測量の費用は、約60万円かかりました。

法務省から土地の境界を明らかにする図面等について参考例がでました。
その一部を抜粋します。


※「相続土地国庫帰属制度のご案内(第2版)」より抜粋

一般的な住宅地や農地など区割りができている土地の境界は比較的分かりやすいので申請もそこまで大変ではありませんが、山林や原野など境界が分かりにくいところは大変です。

費用もさることながら、申請者が一度も見に行ったことがないなど場所の特定すらままなりません。今後制度を使う予定がありそうな場合は、土地の境界を分かっている方が元気なうちに家族や専門家が確認しておく必要があるでしょう。

⑶別荘地や原野商法の土地は引き取ってくれるのか
売れない貸せない土地の相談に多いのは、山林や原野商法(※)で購入した土地、別荘地です。
これらは国庫帰属できるのでしょうか。

まず、別荘地は管理組合等に管理費を支払っているケースはNGです。管理費等の支払いがない場合は申請し審査に進むことができます。

次に、山林は造林や間伐などの実施が必要な市町村森林整備計画がある、経営管理権が設定している等の場合はNGです。これら設定がない一般的な山林は大丈夫です。

原野商法で購入した土地は、それ自体をもってNGとなることはなく審査に進むことができます。ただし、場所特定が困難な土地が多く、土地の境界を明らかにする作業は大変になることが予想されます。

(※)原野商法とは、「開発計画がある」「道路ができる」などと在りもしない嘘の計画を説明をしたり、「将来確実に値上がりする」などと期待させかなり問題のある勧誘を行ったりして販売をしたこと。

お客様の土地が国庫帰属制度を利用できるかどうか、令和5年2月22日より法務局、地方法務局(本局)の不動産登記部門で相談できるようになりました。※原則、その土地が存するところですが、遠方である場合は最寄りのところで受け付けてくれます。


※相続土地国庫帰属相談票(法務局HPより)


※相談したい土地の状況についてチェックシート(法務局HPより)

相談はインターネットで事前受付していますので、該当するのかどうか迷ったときなど利用してみるのも良いですね。
法務省:相続土地国庫帰属制度の相談対応について

③カネの要件

国が土地を引き取ってくれる制度と言っても、無料というわけではありません。負担金を支払うことで国庫帰属されます。法務省ホームページに負担金の計算式が載っていますのでまずはそちらをご覧ください。


法務省:相続土地国庫帰属制度の負担金

基本的な負担金は20万円で、市街化区域内の宅地や農用地区域内の農地、山林などは20万円ではなく計算式に当てはめて計算する必要があります。法務省ホームページに自動計算シート(Excel)があり、面積を入れるだけで算出してくれますので一度使ってみてはいかがでしょうか。

負担金計算例
引き取り時の負担金について、例を挙げて計算してみましょう。

【市街化地域内にある宅地 土地面積300㎡】
負担金は、200㎡超400㎡以下ですから、(300㎡×2,250円/㎡)+343,000円の計算式を当てはめます。計算すると、1,018,000円です。

【山林 土地面積2000㎡】
負担金は、1500㎡超3000㎡以下ですから、(2000㎡×17円/㎡)+248,000円の計算式を当てはめます。計算すると、588,000円です。

また、この他に審査手数料(現時点未発表)、建物があれば解体費用等もかかります。

相続土地の国庫帰属制度は、鳴り物入りでスタートしましたがいざ蓋を開けてみると要件が厳しく断念している方が目立っています。まずは、ご自身の土地が要件満たすのか、満たすためにはいくら費用が掛かるのかをチェックしましょう。

おすすめの記事

一覧を見る