更新日:2024-11-25
相続したけど誰も使っていないの実家を売却するとき、一定の条件を満たすことで、手取り金額がなんと最大 600 万円も増える特例があることをご存知ですか?
この相続した不動産を売却したときに税金が安くなる特例を、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」(以下「特例」という)といいます。
一般的に、この特例は「相続空き家の 3,000 万円特別控除」とも呼ばれています。
ただ、どのような不動産でも使えるわけではなく、いくつか適用要件があります。
本記事では、この特例の適用要件や、空き家となる実家の売却を考えている方が、今から準
備しておいたほうがいいことなどをお伝えします。
それでは「相続空き家の 3,000 万円特別控除」の内容を見ていきましょう。
この特例は、『空き家を相続した方の売却支援』を目的として創設された税制上の特例です。
具体的には、相続で取得した実家(空き家)を売却する際、税金の負担が軽くなります。
どのくらい税金の負担が軽くなるのか、また特例を利用するための条件を見ていきましょ
う。
不動産を売却したときに利益(儲け)が出ると、その利益に対して税金がかかります。
このときにかかる税金を『譲渡所得税』と呼びます。
《譲渡所得税の簡易計算式》
売買価格−(取得費+譲渡費用)=課税所得(利益)
課税所得(利益)×税率 20.315%=納める税金
※国税庁 HP 取得費となるもの 譲渡費用となるもの
では、実際に計算してみましょう。
【前提条件】
▼特例を利用しない場合
▼特例を利用した場合
特例を利用したほうが、約 600 万円も税金負担が減り、手取りが増えていますね。
空き家状態の実家を相続して売るのであれば、この特例をぜひ利用しましょう。
次に適用要件を見ていきます。
この特例を使うためには、いくつか要件があります。
建築年月日、売買価格、相続後から譲渡まで空き家であることなどの要件があり、これらを知っておかないと、いざ特例を使おうとしても「使えない…」なんてことになりかねません。
が条件です。
子や親族などが親と同居していたりすると、適用対象外となり特例が使えません。
・昭和 56 年 5 月 31 日以前に建築された一戸建てである
2 つ目の要件は、昭和 56 年 5 月 31 日以前に建築された建物であることです。
特例の創設目的が『耐震性の低い空き家を減らすこと』ですから、対象建物の建築年月日に
要件があるということですね。
この基準日は耐震基準の見直しがあった年で、《昭和 56 年 5 月 31 日以前を旧耐震》、《それ
以降を新耐震》の建物としています。
この基準に沿って、耐震性が低い=旧耐震=昭和 56 年 5 月 31 日以前の建物として要件に
加えられています。
ただし、建築年月日の確認は、建物登記簿に記載されている建築年月日が昭和 56 年以降で
あっても、『建築確認通知書』で確認しましょう。
『建築確認通知書』の日付が、昭和 56 年 5 月 31 日以前であれば旧耐震として特例適用で
きる可能性があります。
相続発生のときから売却するときまで、継続して空き家でなければなりません。
もし空き家だからと誰かに賃貸したり、居住したりすると空き家状態ではなくなり、特例の
対象から外れてしまいます。
賃貸などを検討する場合は、特例が使えなくなることを理解したうえで判断するようにし
ましょう。
売買価格にも要件があり、1 億円以下でなければなりません。
たとえば、空き家が 1 億 5 千万円で売れることが分かったとします。
「売買契約を 7,500 万円ずつ 2 回に分ければ 1 億円以下だから、この特例を使えるのでは!?」
答えは、「NG」です。
2 回に分けたとしても、合計 1 億円以下かどうかで判断しますので注意してくださいね。
空き家を相続した人たち全員で 3,000 万円の控除ではありません。
【空き家を相続した人数】
1 人:3,000 万円
2 人:3,000 万円×2 人=計 6,000 万円
3 人:2,000 万円×3 人=計 6,000 万円
4 人:2,000 万円×4 人=計 8,000 万円
(※令和 6 年 1 月 1 日以降の相続より適用)
空き家を売却したとき、相続人は相続した不動産の持分に応じて売買代金を得るため、各々
が納める税金を計算します。
先ほどの《譲渡所得税の簡易計算式》で税額を計算してみましょう。
【前提条件】
A さん
売買価格のうち 2,500 万円−(取得費 125 万円+譲渡費用 85 万円+特例控除 3,000 万円)
=課税所得 0 万円
0 万円×20.315%=0 万円
B さん
A さんと同じ計算式で求めます。
結果、A さんも B さんも譲渡所得税は 0 円となります。
相続人が 2 人以上いるときで、空き家となった実家を売却するなら共有で相続し、この特
例を各々使えれば、一人で相続して売るよりも相続人に残るお金が増えますね。
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売却するとき、旧耐震の古い建物をどのような状態で買主に引渡せばよいかなど、気を付けたいことがあります。
建物を耐震補強するか、解体して更地にしてから売却する
売却するとき、建物は次の 2 つのどちらかの状態とすることが必要です。
建物の耐震補強または解体し更地にするときに気を付けたいことは、タイミングです。
令和 5 年度の税制改正で、特例を受けるためには、譲渡の日の属する翌年 2 月 15 日までに耐震補強や建物解体をする必要があります。
確実に特例を適用するには、買主さんに物件を引き渡す前に耐震補強や解体をしておくと安心です。
親が自宅に住んでいたことが要件でしたが、老人ホーム等に入所していた場合どうなるでしょうか。
親が要介護認定などを受けて老人ホーム等に入所した場合も、この特例を適用できるように改正されています。
ただし、「親の荷物が置いてある」など細かな要件があります。この点については相続に詳しい税理士や、最寄りの税務署に確認しましょう。
また、ご本人や親のケースが要件に該当するのか詳しく知りたい方は、国税庁ホームページのコード 3307「被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋」をご覧ください。
老人ホーム等に入所していたら特例は適用できますが、子の家や一般的な賃貸に入居していた場合、どのような扱いとなるのでしょうか。
この場合、親が自宅に住んでいないとみなされてしまい、
《相続発生前まで住んでいたこと》
という要件に当てはまらなくなり、この特例を利用することはできません。
適用要件の一つに、
《相続が発生してから 3 年を経過する日が属する 12 月 31 日までに売却すること》
とあります。
上記のような理由から、期限内に売却することができない場合もあります。
期限切れ後に売却すると、この特例を利用できず、通常の税金を納めることになります。
また、この特例は今後も継続してあるものではなく、
令和 9 年 12 月 31 日までの期限付き
の特例です。
これまでお伝えしたとおり、手取りが最大 600 万円も変わりますから、この特例を利用できるのであれば是が非でも使いたいですよね。
令和 5 年 1 月に、東京国税局から「家族信託中に相続が発生した場合、当該特例は適用できない」との発表がありました。
いずれ空き家となる実家を売却する予定がある方は、家族信託の適用には十分に留意してください。
認知症対策として注目されている家族信託についてお知りになりたい方は、以下の記事をご覧ください。
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家族信託ってなに?概要や仕組みをわかりやすくイラスト解説!
この特例を賢く利用するためには、事前に準備をしておくことが大切です。
そのためのポイントが 4 つあります。
どのくらいの価格で売れるのかを確認するために、下記のステップを行ってみてください。
①不動産会社に査定をお願いする
②以下の記事を参考に、ご自身でおおよその売買価格を確認してみる
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相続不動産の高額査定に要注意!自分で時価を判断するための 3 つの方法
【価格査定時の確認ポイント】
・1 億円以下かどうか
→1 億円超だと特例の対象外となるため
・3,000 万円以上かどうか
→相続人が複数名いる場合、共有で相続することで各人が 3,000 万円の控除(3 名以上は2,000 万円/人)を利用して税メリットを享受できる
特例適用の判断や、2 人以上で相続したほうがよいかの判断材料とすることができますので、価格査定はしておきましょう。
不動産相続の現場でお客様が“一番”と言っていいほど苦労されているのが、「部屋の片づけ」です。
捨てる物だけになっていればいいのですが、思い出の品や換金できる物などとの分別にとても時間がかかります。
産廃業者に依頼すると一度で終わるので楽ですが、費用もかさみます。
少しずつご自身で整理(ごみ処理・不用品回収など)しておくだけで、だいぶ費用を抑えられますので、早めに片づけ始めることを推奨します。
「空き家のままはもったいない」「親の介護費用を捻出したい」「空き家でも毎年税金がかかる(固定資産税など)」「空き家の実家を貸して、賃料収入を得たい」など、賃貸をするか一度は考えるのではないでしょうか。
注意したいことは、
(1)この特例を利用して売却したときの手取り額
(2)賃料収入(空き家を賃貸)+相続後に売却したときの手取り額(特例適用不可)
一見すると賃料収入も得られる(2)が多く収入を得られそうですよね。
しかし(1)の方が、手取りが多くなることもあります。
安易に貸すことを選択せず、貸す場合や売る場合をシミュレーションし検証したうえで、事情を考慮して判断しましょう。
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実家の方向性を巡って相続人同士で争ってしまうと、解決までに時間も労力もかかり、特例の要件である『相続発生から 3 年を経過する日が属する 12 月 31 日までに売却』という期限が過ぎてしまうかもしれません。
そうなると、税負担を軽減できるメリットを享受できなくなります。
これでは誰も得をしませんよね。
親が元気なうちに、「実家をどうするか?」と話し合っておくことが大切です。
実家の方向性について相談先に迷ったときは、以下の記事をご参考にしてみてください。
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相続対策の相談は誰にする?相談先と報酬相場の判断材料
実家は育った場所であり、親との想い出もある、先祖代々引き継ぐもの、など経済的な損得勘定では測れない想いが沢山あると思います。
また、相続する人ごとにその想いの重さも違うでしょう。
だからこそ、できることなら「子は親へ。親は子へ」、元気なうちに想いや希望を聞き、家の維持負担など現実的なこともよく話し合い、大切な実家を空き家のまま朽廃させないように取り組んでいく必要があると思います。
空き家となる実家の相続については、相続に詳しい不動産会社や税理士などの専門家へご相談ください。