更新日:2023-04-03
「親から土地を引き継いだ山林や別荘を持っているが、売れないし貸せない。将来、相続する子に負担がかからないようにしたい」
このような悩みを抱えていませんか? 不要な不動産は、放置していると、固定資産税や維持管理費を払い続けることになるなど、負担が大きくなってしまいます。
そんな負担を増やさないために知っておきたいのが、「相続土地の国庫帰属法」という法律です。簡単に言えば、売れない・貸せない不要な不動産を国が引き受けるという法律なのです。
ここからは、相続土地の国庫帰属法の概要とその使い方、今から準備しておくことなどを紹介します。相続する予定の不要な不動産について、処分方法の選択肢を増やしておけば、いざという時にあわてずに済むでしょう。
【今回のポイント】
「相続土地の国庫帰属法」は正式には『相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律』といいます。令和3年(2021年)4月28日に公布されました。
この法律は、所有者不明の土地の問題を解決するため、相続で取得した土地を国が引き取るという目的で創設されました。
所有者不明土地の問題とは、例えば、固定資産税を請求するため現在の土地所有者を探すための費用がかさむことによる財政圧迫、土地を開発するときに所有者と連絡がとれない、などのことです。
相続土地の国庫帰属法は、すべての財産を放棄する相続放棄制度と異なり、土地だけを国に引き取ってもらえます。相続した他の資産まで手放す必要はありません。
審査手数料以外で国へ支払う土地管理費相当額の目安は、下記のようになります。
市街地にある宅地(200㎡):約80万円
管理の手間が少ない原野など:約20万円
土地を無料で引き取ってくれるわけではありません。上記の費用のほかにも加算される可能性があるので、今後も情報の発表をチェックする必要があります。
国が引き取らない土地として10の条件があります。
いま所有している土地がこの条件に当てはまっている場合は、当てはまらないように整備する必要があります。
例えば、建物があれば解体して更地にする必要がありますし、境界が明らかではない土地は境界確定測量をしなければなりません。
横浜市内の一般住宅地(土地90㎡、接している隣地の数が5宅地)の例で計算してみましょう。
・建物の解体費用の目安(建物の構造や面積などによって変わります)
木造2階建て建物:1㎡当りの単価2万円~
鉄骨系:1㎡当りの単価5万円
木造の一戸建て3LDK(90㎡)を解体するとなると、解体費は180万円くらいになると考えられます。
また、土地の境界確定測量の費用は土地面積や土地の数、接している隣地の数などによって変わりますが、多くの土地家屋調査士は、30万円~と設定しているようです。
上記の横浜市内の一般住宅地では、土地確定測量に60万円くらいかかりました。
結果として解体費180万円+土地の境界確定測量費60万円=240万円の負担がかかります。
また、土地管理費相当額が一般住宅地200㎡以下80万円と仮定すると、240万円+80万円で、計320万円ということになります。
さらに別途、相続土地の国庫帰属法の審査手数料もかかります。
本記事執筆時点で明らかになっている情報による想定の費用ですが、土地を整備するだけでも、かなりの金額がかかりそうです。
申請期限や、過去に相続した土地は対象となるのかなど、気になる点がありますが、本記事執筆時点では、まだ詳細の情報はありません。
国が引き取る条件をみて、実際に引き取ってくれる土地なんてあるのか?と思うくらい相当厳しいというイメージを持ちました。
相続土地の国庫帰属法にある引き取り条件は、日本一厳しいと言っても過言ではないほど厳しいものです。
実際に国が引き取ってくれる土地が本当にあるのかと思うくらいですので、実際には引き取らない土地の条件の①~⑩に当てはまる方が多いと考えられます。
将来的に相続土地の国庫帰属法を使いたいと考えている方は、まず引き取ってもらいたい土地を『相続土地の国庫帰属を申請できる状態』まで整備することが重要です。
『相続土地の国庫帰属を申請できる状態』まで整備するために、必要なことを整理します。
このほか、隣地との紛争がない状態を示すために、樹木の枝葉やブロック塀などの(被)越境物の解消なども必要となります。
また、引き取りの条件には「土地の境界を明らかにする」という項目があります。宅地なら測ることも可能ですが、山林となると土地面積は広大で、その労力や費用は大変なものです。
整備には相当な時間や労力を要しますから、早めに準備を始めておきましょう。
なお、仮に申請しなくなったとしてもかかった費用や時間が無駄になることは少ないと考えられます。国が引き取れるような土地は、第三者から見れば『まったく問題のない土地』とみなされるからです。
整備したことによって買い手が現れる可能性もありますし、引き取り業者から引き取ってもらいやすくなるでしょう。
自分も使わない、売れない・貸せないような土地を相続したくないという場合、このような不要な不動産は、相続土地の国庫帰属法以外に主に次の2つの対応策があります。
地方自治体や財団などへの寄付という方法もありますが、特に地方自治体が不動産の寄付を受け付けることはほとんどないので、本記事では割愛します。
1. 相続放棄
2. 事業者による引取り
親の遺産を相続したくない場合は、相続の開始を知った日から3カ月以内に裁判所に相続の放棄の申述をする必要があります。手続きをしなければ、相続を放棄することはできません。
主な留意点
被相続人の財産を相続時に放棄できますが、不要な不動産を以外も含む全ての財産を放棄することとなります。
不要な不動産以外にどのような財産があるのか調査したうえで、この制度を利用するのか慎重に判断することをおすすめします。
所有者が、引き取り事業者に対し費用を支払うことで、不動産を引き取ってもらうことが可能です。
相続放棄は、すべての財産を放棄しなくてはいけないため、不要な不動産だけを処分したい人には向きません。そこで注目なのがこの方法です。
主な留意点
売れない貸せないと悩んでいる高齢の不動産所有者を狙った詐欺には、留意する必要があります。
不動産ブローカーと名乗る者から「買い手がいるから調査料をください」、「買い手が測量をしてほしいと言っているので、測量費をください」と連絡がくることがあります。先にお金を支払ったら最後、そのまま連絡が取れなくなるケースがあるのです。
売れなくて困っている方の弱みに付け込んだ詐欺である可能性が高いので、先にお金を要求してくる業者にはご注意ください。
本記事では、相続土地の国庫帰属法や引き取りサービスなどを紹介しました。
ご家族にとって最善の選択肢を選べるよう、たとえ不要な不動産であっても放置するのではなく、早いうちから整備して処分の選択肢を増やしていきましょう。
そのためには、相続に詳しい不動産の専門家に相談することをおすすめします。