更新日:2023-02-13
「相続税を支払う現金がない」
「現金で相続税を払うと生活が困窮してしまう」
相続した財産の内容によっては、このような状況になってしまうことがありますが、どうしたらいいのでしょうか?
相続税は現金一括払いが原則です。しかし、どうしても納税できない場合、分割払いや現金に代わって物で納めることができる救済措置のような制度があります。
ただし、物納はあくまでも現金で納められないときの救済なので、自由に納税方法を選べるわけではありません。また、納められる物と納められない物などの基準があります。
ここからは、相続税の支払いを不動産で物納する方法についてまとめました。物納できる不動産や、今から準備しておくべきことなども解説します。
【今回のポイント】
物納とは、相続税を納める方法のひとつで、お金ではなく物で納めることができる制度です。
物納できる財産は、土地や建物、国債や地方債証券、上場株式などが代表的。このほかに非上場株式や動産があります。
この制度は相続税のみ使えるもので、贈与税や所得税などの税金には使えませんので注意が必要です。
相続税の現金一括払いができない場合、特例として分割払いで納める「延納」という制度を利用します。しかし、もし延納でも納められないときに初めて物で納める物納が使えます。
物納とは、現金一括払いの原則からすると、特例中の特例の納税方法なのです。特例ですから、物納を使う要件はとても厳しく、誰でも気軽に使える制度ではありません。
延納とは、相続税を一括払いできなかったとき、現金で支払えなかった部分を分割払いで支払うことができる制度ですが、延納を利用するには、遺産や納税者の財産に相続税を支払う現金がない状態であることが大前提となります。
当面の生活費や事業資金は残せるものの、この当面の生活費というのも生活費の3カ月分など厳しく制限があります。
また、相続税を延納したい場合は相続税申告期限内に延納申請書や担保提供関係書類を税務署に提出する必要があります。
延納には利子税がかかることにもご注意ください。
利子税率は、不動産等が占める割合によって変動しますが、不動産等の割合が75%以上のとき0.8%や1.3%などとなります。
延納や利子税率を詳しく知りたい方は「国税庁HP 相続税の延納」をご覧ください。
物納には、下記の4つの要件があります。
現金でも延納でも支払えない金額部分を、お金の代わりに物で納めることができますが、このときに(3)相続税の納税期限までに提出しなければならないとしています。
そして、国が定めた財産基準であることが要件になっているため、もし基準外の財産であれば、物納申請しても却下されます。
物納できる財産は、遺産にある不動産や船舶などですが、その種類によって物納に充てる順位があります。
第1順位
第2順位
第3順位
このように第1順位(1)から第3順位(5)まであり、第1順位と第3順位の財産があった時は第1順位の財産から物納することになります。
たとえば、第1順位の財産は相続して持ち続け、第3順位に該当する財産は要らないから物納に充てたいと考えても、第3順位の財産を選んで物納に充てることはできません。あくまでも順位どおりに物納に充てることになります。
物納の第1順位内ではあるが、優先度は低いものを「物納劣後財産」といいます。
ハ 仮換地または一時利用地の指定がされていない土地(その指定後において使用または収益をすることができない土地を含む)
ニ 現に納税義務者の居住の用または事業の用に供されている建物およびその敷地(納税義務者がその建物および敷地について物納の許可を申請する場合を除く)
ホ 配偶者居住権の目的となっている建物およびその敷地
へ 劇場、工場、浴場その他の維持または管理に特殊技能を要する建物およびこれらの敷地
ト 建築基準法第43条第1項(敷地等と道路との関係)に規定する道路に2メートル以上接していない土地
チ 都市計画法の規定による都道府県知事の許可を受けなければならない開発行為をする場合において、その開発行為が開発許可の基準に適合しないときにおけるその開発行為に係る土地
リ 都市計画法に規定する市街化区域以外の区域にある土地(宅地として造成することができるものを除く)
ヌ 農業振興地域の整備に関する法律の農業振興地域整備計画において農用地区域として定められた区域内の土地
ル 森林法の規定により保安林として指定された区域内の土地
ヲ 法令の規定により建物の建築をすることができない土地(建物の建築をすることができる面積が著しく狭くなる土地を含む)
ワ 過去に生じた事件または事故その他の事情により、正常な取引が行われないおそれがある不動産およびこれに隣接する不動産
※「国税庁HP 相続税の物納」から一部抜粋
地上権や仮換地、劇場などを所有している方はそもそも少ないのですが、調査をしてみたら違反建築物であったり接道要件を満たしていないといった原因で、赤文字の物納劣後財産に引っかかってしまうことが多いです。
そもそも物納に充てられない不動産もあります。それを「管理処分不適格財産」といいます。
ニ 隣接する不動産の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の使用ができないと見込まれる不動産
ホ 他の土地に囲まれて公道に通じない土地で民法第210条(公道に至るための他の土地の通行権)の規定による通行権の内容が明確でないもの
ヘ 借地権の目的となっている土地で、その借地権を有する者が不明であることその他これに類する事情があるもの
ト 他の不動産(他の不動産の上に存する権利を含む)と社会通念上一体として利用されている不動産もしくは利用されるべき不動産または二以上の者の共有に属する不動産
チ 耐用年数(所得税法の規定に基づいて定められている耐用年数)を経過している建物
リ 敷金の返還に係る債務その他の債務を国が負担することとなる不動産(申請者において清算することを確認できる場合を除く)
ヌ その管理または処分を行うために要する費用の額がその収納価額と比較して過大となると見込まれる不動産
ル 公の秩序または善良の風俗を害するおそれのある目的に使用されている不動産その他社会通念上適切でないと認められる目的に使用されている不動産
ヲ 引渡しに際して通常必要とされる行為がされていない不動産
ワ 地上権、永小作権、賃借権その他の使用および収益を目的とする権利が設定されている不動産で次に掲げる者がその権利を有しているもの(暴力団員、暴力団に支配されている者など)
※「国税庁HP 相続税の物納」から一部抜粋
国が物納で引き取らない不動産としていくつかありますが、この中でよく見かける不動産はㇵの「境界が明らかではない土地」です。隣地のブロック塀が敷地に越境している状態もNGです。
この管理処分不適格財産や先ほどの物納不適格財産に該当していたとしても、たとえば土地の境界を明らかにしたりすると物納可能な財産になる場合もあります。不適格財産に該当してもすぐにあきらめず、物納可能な財産にできるかどうかをよく検証しましょう。
不動産で物納する場合、いくらで引き取ってくれるのでしょうか?
これは相続税を計算するときの、課税価格計算の基礎となった財産の価格、つまり「相続税評価額」です。なお、小規模宅地の特例を使っていたときは、その適用後の価格となりますので注意しましょう。
たとえば、土地100㎡ 相続税路線価20万円/㎡ 正方形の更地があったとします。
この土地の相続税評価額は100㎡×20万円/㎡=2,000万円となります。
したがって、物納で収納される価格は2,000万円です。
不動産で物納するときは、まず物納不適格財産や物納劣後財産に該当しているのかどうかをチェックしたり、相続税評価額を求めたりすることが必要です。
相続税評価額は税務署、または税理士等の相続税に詳しい専門家に聞いてみましょう。
相続税の支払いを不動産の物納で考えているときは、必ず物件調査を行いましょう。
物納不適格財産や物納劣後財産に該当しているのか、問題となっているところを解消すれば物納できるのか、確認することが大切です。
物納ができるのかどうかをランク付けするなどして不動産調査し、問題点を把握しましょう。
物納をするメリットは、大きく2つあります。
【例】
相続税1,000万円
時価500万円、相続税評価額2,000万円の土地があったとします。
もし土地を売却し、売却して得たお金で納税しようとすると、500万円から譲渡所得税100万円(500万円×20%=100万円)を引いた400万円が手元に残りますが、相続税1,000万円には足りません。
しかし、物納で収納される金額は、相続税評価額2,000万円です。相続税は1,000万円ですから十分足ります。
しかも、超過物納といって相続税は1,000万円ですが、物納の収納価格が2,000万円で差額1,000万円も多くなります。この差額1,000万円は現金(譲渡所得税を引いた残額)として戻ってきます。
このように、時価よりも相続税評価額が高いような不動産は物納したほうがお得になるのです。
※譲渡所得税の計算は概算です。また不動産仲介手数料や印紙税などの諸費用は考慮していません。
物納は相続税申告期限(相続開始等から起算し10カ月以内)までに申請する必要があり、この時点で物納できる不動産となっていなければなりません。
もし相続が発生した後に土地の境界確認作業を始めて、その作業が3カ月で終わらず1年以上かかる見込みになったら、物納の申請はできません。
このときは、物納提出期限から起算して最大1年間は延長することが可能です(1回の申請につき最大3カ月、最大1年間の延長)
しかし、不動産の問題解決は年単位でかかることが少なくありません。「1年も延長できる」ではなく「1年間しか延長できない」と考えて、早め早めに調査して問題点を解決しましょう。
先ほどの事例では、相続税評価額のほうが高い例を取り上げました。
しかし、次のような例の場合は、物納ではなく売却して納税したほうがお得になります。
【例】
相続税1,000万円
時価3,000万円、相続税評価額2,000万円の土地があったとします。
物納すると2,000万円で収納してくれて、差額1,000万円(譲渡所得税を差し引いた残額)が返ってきます。
しかし、売却すると、3,000万円から譲渡所得税600万円(3,000万円×20%=600万円)を引いた2,400万円が手取りになり、そこから相続税1,000万円を支払うと、1,400万円が手元に残ることになります。
このように、物納か売却かは、“手取り額”を計算し、比較した上で選択しましょう。当然、物納できることが大前提で、売却するときは納税期限内に売却できる見込みが高くなくてはなりません。
※譲渡所得税の計算は概算です。また不動産仲介手数料や印紙税などの諸費用は考慮していません。
物納のための不動産調査で特に多い問題点は、下記の3つです。
1.土地の境界が明らかではない
土地の境界を明らかにする作業を「土地境界確認」といいます。通常3カ月くらいかかり、長くなると1年以上かかることもあります。土地の境界測量は、いつ作業が完成するか、やってみないとわからないのです。
2.ブロック塀などの越境物がある
土地境界測量をすると、境界線が判明するため越境物の有無がわかるようになります。この越境物は、樹木の枝葉程度であれば比較的問題解決しやすいのですが、ブロック塀や屋根の一部など大きいものだと解決するには時間も労力も費用もかかります。
まずは土地境界測量を行い、越境物の有無をチェックしましょう。
3.賃貸借契約書がない
底地やアパートなどの賃貸物件も物納できますが、賃貸借契約書を締結していない、更新契約を失念しているなど、賃貸借契約書がないと国は引き取ってくれなくなります。
また、敷金返還の債務は国が引き継がないため、物納前に精算しておくことが必要です。しかし、敷金を入居中に賃借人に返還するのは実務的に良い方法ではありませんし難しいものです。
アパートなど賃貸物件を物納するときは、ちょっとしたコツが必要なので検討したい方はお問い合わせください。
相続税の納税期限は、被相続人が亡くなってから10カ月。長いように思えますが、不動産売却や物納を考えている方にとってみると、実は短いものです。
物納を考えている方は、親などの生前から不動産の整備などを行っておくと、相続後に焦ることなく安心して進めることができます。
相続税の物納は、相続に精通した税理士や不動産会社に相談することをおすすめいたします。